⑥日韓会談文書を中心に--議論の終結と資料--

【2011年6月21日改】


4月28日ブログ上からこのエントリーだけが忽然と消えました。そこで急遽修復作業中ですので、以下のものは暫定版です。ご了承ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



日韓会談文書についてのRさんGさんの議論です。公開されている文書ですからどちらかが文脈無視の牽強付会を行った場合、誰の目にもすぐ明らかになります。
お二人の議論もいよいよ大詰めです。



//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////



R 2010/02/08 00:03
以下は、あなたが紹介してくれた「日韓市民でつくる 日韓会談文書・全面公開を求める会」のURL( http://www7b.biglobe.ne.jp/~nikkan/ )からの引用に基づくものです。



①先ず、日本公開の日韓会談文書( http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/nihonkokai/nihon.html )の中の第4次開示決定文書( http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/nihonkokai/4ji/4jikettei.htm )にある「日韓会談処遇小委員会(第三次)」(文書番号:222)の記録8枚目の13行目から17行目までを抜粋:

「国籍の変動の基準は大体住所地主義であり平和条約第二条の規定のみでは在日韓国人日本国籍を喪うとはいいきれない旨の日本側発言に対し、先方(韓国側)は依って(在日の)処遇について満足が行かない場合はこのまま日本国籍を取得させることもありうる旨述べた。」

これに対応する韓国側の記録は、韓国公開の会談文書( http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/honyaku/honyaku.html )の中のPDFファイル81「第1次韓日会談(1952.2.15−4.21)在日韓人の法的地位委員会 会議録、第1−36次、1951.10.30―1952.4.1」( http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/honyaku/honyaku-2/81.pdf )の33頁6行目から16行目:

日本側 平賀代表 「領土の変動は住所者に対して国籍を定めるのが国際慣例なのだが、平和条約だけでは在日韓人の日本籍の喪失にならないので、これを決定する必要がある」と言ったのに対して、
わが側 兪鎮午代表 「国籍選択権を付与すれば良い」と言った。 
これに対して日本側 平賀代表 「それは領土の割譲時の選択権の例ではないかと思われ、在日韓僑の件は国際先例がないではないか」と反問したのに対して、
わが側 洪代表 「第一次大戦後のポーランド等を先例にすれば、日本籍を持って韓国籍を選択できるようになるではないか」と聞くと、
即 田中代表 「それは結局待遇問題だから、決定をしなければ無国籍者だけ出るではないか」と答弁したので、
わが側 洪代表 「住所主義によって日本籍を取得すれば良い」と言った。

上記の会議録から

                                                                                                                                              • -

サンフランシスコ平和条約だけでは在日朝鮮人日本国籍喪失にならない。
・領土の変動時は住所地の国籍を認めるのが国際慣例。
・韓国は在日の日本国籍取得に必ずしも否定的ではなかったし、
 在日の処遇いかんによっては国籍選択権も視野に入れていた。

                                                                                                                                              • -

ということがわかります。
ちなみに、在日の処遇について、韓国側代表は参政権等を除いて日本人と同等の待遇を求めたのに対し、日本側はそのような特別待遇を認める意思がない旨回答している。



②上述の日韓会談に先んじて日本側は、「国内朝鮮人の法的地位に関する対韓折衝方針」( 第4次開示決定文書内、文書番号:549 )を作成し、1枚目の「一、国籍の決定」の項で、「日本国籍を得たいものは、国籍法による帰化手続きによらしめることとし、オプション制度を廃すること。」との方針を明確にしている。

「日本政府としては帰化による方が日本国籍の取得をコントロールする自由があることを考えれば国籍の変更は帰化によらせる方が適当であり、国籍選択権は認めない方がよい。」と説明し、「在日朝鮮人のなかには日本の国籍取得を希望するものが多い模様であるが、韓国政府はなるべく同国籍を保有させたき意向の様子であり先方から本件を持出すことはあるまい」と考えていた。

また、同文書の1〜2枚目にかけて、「二、国籍の決定基準」は「戸籍に拠ること」とし、「この戸籍という形式的要件を利用して誰が外国人としての朝鮮人であるかを決定するほうが、過去における領土の割譲又は独立の際に行われたような言語その他の実質的要件に基づいて住民の国籍を決定するよりも簡明に処理できる。」と説明し、「すなわち平和条約締結の際に日本の戸籍をもっていないものはすべて日本の国籍を失うものとして処理する。」と在日の日本国籍剥奪の処理方法を述べている。(尚、同文書5枚目の後半部では、この案に対する意見として、「戸籍の記載そのものによって日本国籍の有無が決定されるのではない」との法的見解が示されている。) この日本側の方針が以降日韓会談の終了まで貫かれたことは、実際の会議の進行が示すとおりである。

さて、先述の韓国側PDFファイル81の32頁の下より15行目から、日本側案文に関する最初の折衝における日韓のやりとり:

わが側 兪鎮午代表 ・・・ 「日本側の提案は選択権を排除しようという意図ではないか」と再度反問したのに対して
日本側 平賀代表 「身分変動は認めるが、そうだ」と言った。

以上から

                                                                                                                                              • -

・日本は日韓会談以前に在日朝鮮人日本国籍剥奪の方針を打ち立てていた。
・日本側が国籍選択権を認めないという強い意思で日韓交渉に臨んだ。

                                                                                                                                              • -

ということがわかります。



③また、韓国側文書のPDFファイル78「韓日会談予備会談(1951.10.20−12.4) 在日韓人の法的地位問題事前交渉、1951―9」( http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/honyaku/honyaku-2/78.pdf )では、韓国側が連合国側に対して、「在日同胞も大韓民国憲法及び大韓民国国籍法に依拠した大韓民国国民である」ことを確認し又日本政府に指示することを要請したことが述べられているが、24頁には、連合国側法律局ベーシン氏は、「韓国国籍法を日本政府がそのまま受諾するよう強制できない」、「国籍問題はSCAP(連合国最高司令部)の権限外」、「国際法原則上、平和条約に随伴する案件決定は占領当局権限外」と答え、「日本政府も知っていることだろう」と付け加えて回答したことが記述されている。

以上から

                                                                                                                                              • -

・連合国側には在日朝鮮人の国籍の得喪及び法的地位に関する決定権がない。
・つまり、在日朝鮮人日本国籍喪失は連合国の意思によるものではない。

                                                                                                                                              • -

ということが確認できます。



④「平和条約だけでは在日朝鮮人日本国籍喪失にならない」との認識に加えて、前出の日本側文書「国内朝鮮人の法的地位に関する対韓折衝方針」( 第4次開示決定文書内、文書番号:549 )の8枚目には、「在日朝鮮人の法的地位を確定するには条約の締結が必要」との認識が記されている。

さらに、「国籍の得喪基本的人権に関る事柄であるから批准条約を以って定める必要があり、これ以下の例えば行政的取極め等によることは適当ではない」とも述べられている。

結局、平和条約発効までに在日朝鮮人の処遇についての日韓協定が批准されることはなかった。

以上のことから

                                                                                                                                              • -

・在日の日本国籍喪失は、国際条約によらない日本による一方的剥奪であった。

                                                                                                                                              • -

ということがわかります。

尚、サンフランシスコ平和条約http://www004.upp.so-net.ne.jp/teikoku-denmo/no_frame/history/kaisetsu/other/tpj.html )は締結国に「世界人権宣言の目的を実現するために努力」することを求めているが、世界人権宣言の第15条2項は「何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。」と規定している。( http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html ) しかし日本は、その宣言が法的強制力をもたないことをよいことに、それが基本的人権の侵害になることを知りながら、本人の意思を確認することなく、一官吏の一片の通達という行政的手段によって、違法に在日から日本国籍を剥奪したのである。

ということで、これまでのあなたの主張が誤りだということが理解できたでしょうか?




G 2010/02/09 00:40
まず、

> 「国籍の変動の基準は大体住所地主義であり平和条約第二条の規定のみでは在日韓国人日本国籍を喪うとはいいきれない旨の日本側発言に対し、先方(韓国側)は依って(在日の)処遇について満足が行かない場合はこのまま日本国籍を取得させることもありうる旨述べた。」

ですが、同じ資料の韓国側主張として示されているように

「韓国人は総て一九四五年八月九日のポツダム宣言によって非日本人化され…(中略)…一九四五年八月十五日韓国政府樹立により韓国国籍を取得した。従って国籍問題は別に論じる必要がなく処遇の問題が残っているだけである」

と主張を受けての発言であるを忘れてませんか?これをRさんがおっしゃる通りに解釈すれば、韓国側が在日はポツダム宣言受諾時点で日本国籍を喪失し、また終戦と同時に韓国籍になったのだと主張し、日本がそれに対して在日の日本人としての立場があり得る事を確認しようと反論したことになっちゃいますね。これじゃここで議論されてた道義的責任など存在しないことになっちゃいますけど、そういう事でよろしいですか?もちろん違いますよね?

これは単純に言えば日本側の代表者の勉強不足の発言と言える話でしょう。日本側の勉強不足と言えるのは、まずこの「住所地」の定義を明確にしない(後述するように日本の統治機構上これは重大な問題ですから)ままの発言である事、また住所=実態としての居住地とした場合、繰り返しRさんが引用されてきた西ドイツにおける在独オーストリア人のドイツ国籍喪失と国籍選択の過程は国際慣例に基づかない異例の扱いであるという理屈になってしまう事です。多くの植民地の独立の場合、単純に居住地で区分される事はなく、統治の実態に基づく区分がなされるため、その実態を規定するための条文を長々と条約の中に書いたり別途条約を締結したりせざるを得なくなるわけですし、イギリスをはじめ少なくない国が取るように国籍と市民権が切り離されたりするわけですよね。

また、そもそもこの際の発言は田中委員の「根本的な問題であり即答出来ない」という発言(p.3)、またp.6にあるとおり日本としての見解は次回に示す、という立場での発言です。なので、これをもって日本の確定的な解釈というのは無茶苦茶です。実際、この次の第四次の会談(文書番号223)のp.1〜2で「日本側としては講和条約の発効により自動的に日本国籍を離脱するものと解釈している」という回答がなされてるわけですから。

また、第四次の会談の文書番号223のp.2「将来にわたって日本人と同等の権利を得たい者は帰化の方法を取って貰いたいし、この方法によらずして特別の権益を得たいとのお話ならば通商航海条約討議の際、日本側としては相互主義の原則により会談に応じたいと考えている」との主張があるとおり、平和条約とは別途のなんらかの規定に基づく在日朝鮮人の地位に関する扱いを否定してはいません。

さて、住所地と言う表現が日本の統治上重大な問題となると言った理由ですが、終戦当時

・戸籍の本籍…本来の住所
・寄留法による届出…本籍を離れ90日以上滞在する場合、及び外国人が滞在する場合
・世帯台帳…配給のために作られた住民記録

という少なくとも三つの異なる「住所」が存在したからです。住民登録法が出来るまではあくまで戸籍の本籍が本来の住所であり、国民すべてが持っている現在の住所に相当するのがこの本籍。その本籍はどの地域の統治に属する者かに基づき、属する土地の中に定められていたわけです。それ以外の場所は仮の住まいであり、そのような仮住まいする者の実態を特定の目的(徴兵や外国人の掌握、配給など)のために掌握するための寄留法や世帯台帳です。こういう実態を踏まえてこそ戸籍の本籍というものに意味が出てくるわけです。日本の統治と日本の統治下にあった者の間の連結点として、統治によって規定された地域ごとの戸籍制度とそれに基づく本籍というものが存在していたからです。これが

> この戸籍という形式的要件を利用して誰が外国人としての朝鮮人であるかを決定するほうが、過去における領土の割譲又は独立の際に行われたような言語その他の実質的要件に基づいて住民の国籍を決定するよりも簡明に処理できる。

という発言の意図する所ですね。日本が戸籍制度という他国に存在しない身分関係を記録する明瞭なシステムを持っていたからこそ実現できた極めて簡便かつ合理的な要件だったわけです。別の文書(たとえば第四次開示決定の文書番号220)に確認されているように、日本国籍となる根拠が併合条約にあるとする以上、法的な見解としてRさんが指摘されている「戸籍の記載そのものによって日本国籍の有無が決定されるのではない」というのも当たり前。どの戸籍に記載されるべきか、またどの地域の本籍(本来の住所)を持つかは各々の地の統治に基づいて出されていた法令で決まっており、戸籍上の記載自体はそれを反映した結果の記録としての意味しかないものだからです。朝鮮人の場合、朝鮮の地で行われていた統治に基づき、そこで出された法令によって規定された戸籍への登載が義務づけられているわけです。その理屈によって定められた結果として本籍が当該戸籍に記録されているだけだからです。戸籍は統治関係を示す証拠として機能しても、証明されるべきものは統治関係の有無です。朝鮮人の場合、どうがんばっても朝鮮統治なしには自らの日本人としての地位を法的に確立出来ないのです。単に内地に住んでいて寄留届出していても、それは外国人も同じように出しているものだから国籍を主張する根拠にならない。寄留法は内地のみで施行された法律であり、この第1条の「本籍ヲ有セザル者」が内地の戸籍法上の本籍を持たない台湾人、朝鮮人などを指し、また「日本ノ国籍ヲ有セザル者」が外国人を指していたわけで、この寄留法の適用の時点で朝鮮人が朝鮮統治を確認せざるを得なくなる。総てがこんな感じです。そこらへんの理屈は最高裁判決理由で繰り返し説明されているものです。

また、

> 日本政府としては帰化による方が日本国籍の取得をコントロールする自由があることを考えれば国籍の変更は帰化によらせる方が適当であり、国籍選択権は認めない方がよい。

は、その方針が出されるまでの日韓交渉の記録で示されている通り、日本国籍離脱を認める限りは離脱後は一般外国人と同様に扱うという方針に則っているためとの説明ですよね。日本側は繰り返し、特別な扱いが必要なら別途条約等で相互主義に基づき規定するべき、とも言っていますね?そもそも、田中委員が韓国側に強制的に退去させられた在朝鮮日本人の処遇について言及したときに、その件については将来の条約交渉の中でするべし、と主張していたのは当の韓国側ですし(韓国側の資料81.pdfのp.31)。

というか、Rさんが引用されている部分の前に

在日朝鮮人日本国籍法の条項の解釈如何では殆ど凡てが帰化要件を備えておりこれにより本人の意思を実現しうる事」

という一文があるのを忘れていませんか?殆ど総ての在日朝鮮人帰化要件を満たすことが可能であり、本人の日本人として生きる意思を実現出来る事を確認した上で、主権を持つ一国家として、国としての独立を放棄するに等しい自らの裁量に基づかない形の国籍認定を避けているに過ぎません。もしこのような帰化で不足だというのなら、それこそ別途条約で相互主義に基づく交渉をすればいいわけですからね。韓国側が先送りした、韓国によって強制退去させられた在韓日本人の処遇と一緒にね。

日本が韓国の植民地や属国となったのならともかく、敗戦国とはいえ独立後はあくまで対等な国家としての付き合いをして行くわけですからね。


G 2010/02/09 01:26
> 韓国側が連合国側に対して、「在日同胞も大韓民国憲法及び大韓民国国籍法に依拠した大韓民国国民である」ことを確認し又日本政府に指示することを要請したことが述べられているが、24頁には、連合国側法律局ベーシン氏は、「韓国国籍法を日本政府がそのまま受諾するよう強制できない」、「国籍問題はSCAP(連合国最高司令部)の権限外」、「国際法原則上、平和条約に随伴する案件決定は占領当局権限外」と答え、「日本政府も知っていることだろう」と付け加えて回答したことが記述されている。

とはいえ、日本側第四次公開の文書番号561にSCAPによる斡旋案が提示されている事実が記載されているわけですから、在日朝鮮人を永住権を持つ外国人としての地位とする事に異論はないということですね。また、その561には、日本側の意図についてGHQ側に逐一説明し了解を取っている状況が書かれているわけですが。あと、「在日同胞も大韓民国憲法及び大韓民国国籍法に依拠した大韓民国国民である」ということを確認しろ、というのは、要はポツダム宣言時に国籍を喪失した等々の韓国側の主張を日本に強制的に飲ませろ、というわけで、日韓の会談を取り持っているGHQ側としては到底受け入れられないでしょう。会談を設定している理由が無くなるわけですから。

また、第四次公開分の文書549を根拠に

> 「国籍の得喪基本的人権に関る事柄であるから批准条約を以って定める必要があり、これ以下の例えば行政的取極め等によることは適当ではない」とも述べられている。

とおっしゃっていますが、そこのところ、もうちょっと前をよく読んだ方が良いですよ。その行政的取り極めでは適当ではない、というのは、文書549のp.8ですよね?これは、外務事務官千葉氏の「日韓交渉に関し伺の件」という文書の一部分で、

「二、講和条約発効前在日朝鮮人の法的地位を確定するには条約の締結が必要と認められる」

という意見の説明だからですよ。よーくご覧になれば判る通り、

  講和条約発効『前』

在日朝鮮人の法的地位を確定するためには…という話です。現実には

  講和条約発効『と同時に』

外国人としての法的地位が確定したのですから、明らかにこの場合には当てはまらないのですよ。ということで、

> ・在日の日本国籍喪失は、国際条約によらない日本による一方的剥奪であった。

というRさんの主張は、「講和条約発効『前』在日朝鮮人の法的地位を確定するには条約の締結が必要と認められる」の『前』という文字を見落とした事による誤解という事になりますね。



////////////////////////////////////////////////////////////////////



現在元ブログ上でRさんGさんの議論はストップしております。どうやらここで議論終了のようです。






   ********************************************************************




★資料『第5 次 韓・日会談 予備会談』の韓国側公開資料の日本語訳

これは、日韓基本条約締結のためのほぼ最終の予備会談です。
 ①は韓日会談に対する状況の説明で、②は①についての韓国側の検討です。

資料②によると韓国側は以下のように主張しています。
三、処遇問題
   在日韓人の処遇に対してわが側は、選挙権と公職就任権を除いては内国民待遇を上げることを前提に、
五、国籍問題
   在日韓人は原則的に太平洋戦争終了と共に日本国籍を離脱し、大韓民国樹立と国籍法の発効と共に、韓国籍を取得したことを確認しなければならない。

資料①
 会議要録
  1. 会議日時 : 1960 年12 月13 日(月曜日)午後3 時から約1 時間の間
  2. 会議場所 : 政務局長室
  3. 会議出席者 : 外務部政務局長 尹錫憲
          駐韓米大使館1 等書記官 ドナルド・エル・レイナード(Donald L.Ranard)

 韓日会談に対する説明
  3.各分科委員会の討議進展状況
   (2) 在日韓人法的地位分科委員会
    前述したように本委員会は、今まで6 次にわたる公式会議を持ったが、その間色々な問題(例えば在日韓人の永住権、退去強制、職業権、財産権及び財産搬出問題等)に関して、実質的な討議が進行したことで、相当な進展があった。今まで討議されたことを問題別に分けて、双方の主張を説明すると次の通りだ。
    (ア) 永住権問題
     イ、永住権を付与する対象者の範囲
      日本側は永住権を付与する対象者の範囲を制限して、
      (1)太平洋戦争終戦当時から続けて日本に居住する韓人、及びサンフランシスコ平和条約発効以前に日本で出生し続けて居住するその子孫に対しては永住権を与える。
      (2) サンフランシスコ平和条約発効以後に出生したその子孫に対しては、次のように処理する。
       イ) 成年になるまでは家族と同居できるように人道的な措置をする。
       ロ) 成年になったら永住許可申請を受けて、好意的にこれを許可するよう特別に考慮する。
      と主張するのに対して、韓国側はサンフランシスコ平和条約発効前後、成年余否にこだわらず、戦前から日本に続けて居住する韓国人、及びその子孫は当然全部永住権が付与されなければならないし、サンフランシスコ平和条約発効の日時のようなものが在日韓人の永住権付与余否に関する基準点になる理由がないと主張している。

     ロ、永住権許可の方法
      韓国側は申請、審査、発給の順序に沿って永住権を個別的に付与することを原則にしようという意見を持つのに対して、日本側はもう少し包括的で簡便な方法がないかに関して、一緒に討議したいとしている。
     ハ、退去強制
      日本側は、一般外国人は日本国入国管理令第24 条に規定された退去強制事由に該当する者は退去強制されるが、在日韓人に対しては該当事由を縮める用意があると言うのに対して、韓国側は在日韓人が特殊な地位ないし事情を持っているので、退去強制はあり得ないと主張している。
      (イ)処遇問題
       韓国側は在日韓人に対する内国民待遇の付与を要求し、教育及び経済的分野において、日本人と同等な機会が与えられなければならないと主張しており、これに対して該当部間の合意調整後自分の側の提案を提出するとしている。
      (ウ) 在日韓人の本国帰還時の財産搬出問題
       韓国側が帰還者の財産搬出及び送金に対して、如何なる制限も加えてはならないと主張するのに対して、日本側は課税、搬出財産の量、または送金額の限定等で制限を加えようとしている。
      以上が今まで討議された大筋だが、わが側は今後この問題に関して、在日韓人が本人が望むなら日本に安住できるように、最大限の法的及びその他保障を確保してあげる方向で解決しようとしている。

資料②
 在日韓人問題
  在日韓人法的地位委員会で論議された問題は在日韓人の永住権、予備会談 退去強制、財産及び職業権保障を含む一般処遇問題、財産搬出及び国籍問題がある。
 一、永住権問題
  日本側は日本国内での永住権が付与される在日韓人の範囲を、次のように限定しようとしている。
   (A)太平洋戦争終戦当時から続けて日本に居住している者
   (B)前項該当者の子孫で対日平和条約発効日以前に日本内で出生した者
   (C) 対日平和条約発効日以後に日本内で出生した者に対しては、彼らが父母から離されて強制退去をされないように人道的見地から善処する。
   (D) 永住権許可方法に関しては簡便で良い方法があるか韓国側の意見を聞きたい。
  このような日本側の立場を検討したが、
   (A) 日本側は在日韓人子孫に永住権を付与するにおいて、対日平和条約発効日を分界点にしようと企図しているが、これは次のような理由から不可だ。
    (1) 日本側は在日韓人が平和条約発効を契機に彼らの意思に反して日本国籍から離脱したという論理を掲げているが、それならば在日韓人は太平洋戦争終結時に日本国籍を離脱し、大韓民国樹立と同時にわが国籍を取得したのではなく、1952 年平和条約発効に際して初めて日本国籍を離脱した結果になる。
    (2)このような主張は結果的に、平和条約発効以前に大韓民国が独立したことを否認することだから、「久保田妄言」と同じ趣旨になるので言語道断である。
    (3)またわれわれの対日請求権は太平洋戦争終結時(1945 年8 月9 日)から起算しているので、万一このような前例を残せばわれわれの請求額に多大な影響を与えるだろう。
    (4) 在日韓人の子孫は特にその生活本拠地が完全に日本にあるのであり、したがってその生活方式も日本化する傾向が多大なので、属地主義的見地からも彼らに永住権を付与しないのは不当だ。(米国の例を参酌)

   (B) 平和条約発効以後に出生した者に対する善処云々は、次のような理由から不可だ。
    (1) 協定文に明示されなければ、日本側が後にこれに違背する行動を取る時、われわれが抗議を提起しても何の意味もない。
    (2)したがって協定文に明示することが必要だが、日本側が国内外的な理由から秘密裏の言質を願うなら、ORAL STATEMENT のようなものでなく、両側の署名を要する公式文書でなくてはならない。
   (C) 永住権許可方法には次の二つがある。
    (1) 在日韓人(終戦当時から継続して日本に居住した者)全体に自動的に付与する。
    (2) わが駐日代表部に登録させ、その登録証を添付して永住権許可を申請させる。
   これを検討したが、
    (1) 自動的方法を取るならば、在日韓人が永住権を貰えるようになるのが、わが政府の努力の結果ではなく、逆に当然なことだと思って大韓民国を支持するようになる可能性より、却って左翼に自分たちの功労と逆宣伝される怖れがある。
    (2)またこのような措置は在日共産分子たちにも自動的に永住権を与えることになり、彼らに日本内で活動を続ける足場を備えて上げることである。
   これとは反対に駐日代表部の審査を経るようにさせれば、次のような利点がある。
    (1) わが政府の努力を理解させ、また代表部登録が永住権許可申請の要件になるので、韓国系僑胞が増加する可能性が多大だ。
    (2)特に永住権はわが僑胞の最大関心事のひとつなので、これを契機にいわゆる中立系僑胞が左翼勢力から離脱し、われわれに包摂される可能性が多い。
    (3)永住権付与に差を置くことで却って、一部僑胞の子孫が共産化する可能性もあるかも知れないが、それよりは逆にわれわれに包摂される可能性がもっと多い。

  二、退去強制問題
  日本側は彼らに出入国管理令第24 条(外国人で窃盗、極貧者、売淫者、麻薬中毒者、革命分子、反政府分子等を国外追放するという規定)を適用しても、韓国側と事前協議するという立場を取っているので、これを検討したが
   (A)それなら日本側に軽犯者も追放する口実を与えることになる。
   (B)また在日僑胞は大多数が極貧者で日本政府の生活扶助を貰っているが、万一韓日関係が悪化した場合には、彼らを追放しようと企図する怖れがある。
   (C)事前協議云々は事実上、実効性がない語句だ。
   (D)したがって退去強制対象者は第24 条の適用を排除し、これをただ
     (1)革命、反政府分子(2) 麻薬中毒者(3)重罪者
  だけに局限しなければならない。
 三、処遇問題
  在日韓人の処遇に対してわが側は、選挙権と公職就任権を除いては内国民待遇を上げることを前提に、
  特に
   (A) 経済活動(外国人には禁止されている財産権の取得または維持、金融の恩恵、就業差別廃止等)
   (B) 教育
  両面でこれを完全に保障するように要求しているが、まだ日本側から公式態度表明がない。
 四、帰還同胞の財産搬出問題
  わが側は永住帰国者がその財産を搬出すると願う時は、これを無制限許容することを原
  則とするが、特に
   (A) 搬出財産には如何なる関税や料金が負荷されてはならない。
   (B) 韓国へ自由に送金できるようにしなければならない。
  このようなわれわれの立場は、そのまま貫徹されなければならない。
 五、国籍問題
  在日韓人は原則的に太平洋戦争終了と共に日本国籍を離脱し、大韓民国樹立と国籍法の
  発効と共に、韓国籍を取得したことを確認しなければならない。





/////////////////////////////////////////////////////////////////





以下にmacskaさんのブログに書き込んだ私のコメントを追加しておきます。私の姿勢がよくわかると思います。

furukotobumi 2009/11/09 12:32
はじめまして。
ここ一月の論争、楽しく読ませていただきました。一読者の判断として書かせてもらいます。
私はこの件に関して、上のrubio1919さんとも別のブログで意見を交わした経験のある者ですが、その時点での私にはまだ不分明であったことがここの一連の議論によりすっきりとし(特にgiroroさんのコメントは大いに参考になります)そのときよりもさらに自分の考えに確信を持つに至りました。
私は、今、改めて、思うのですが、在日の対人主権を主張した韓国政府は、戦後、在日のために一体、何をしてきたのだと、本当に庇護する気があったのか、それとも在日を外交交渉に利用するだけ利用しておいて、あとは彼らを棄民のような扱いをしてきたんじゃないか、という疑いが浮かんでくるわけです。私は、在日の方々が、半島政府の責任について問うてはいけないもののように一切触れようとしないのが不思議でならないのです。棄民のような扱いを受けていれば、「なぜ捨てた」と問い詰めなければならないのに、なぜか一切、視野の外に置こうとする態度は、私にとってどうにも不可思議です。
wikiには、『1965年の日韓国交正常化を前に、日本政府が在日韓国人の帰還について協議を持ちかけた時も、韓国政府は「彼らの措置は日本が好きにやればいい」と答えており、「棄民政策」の象徴的なことと批判されている(2008年1月16日統一日報)。』との記述もあります。
あてにならない半島国家に何も要求できないという断念が、日本国への執拗で分不相応な謝罪要求へと捻じ曲がるとしたら、だらしない父親に何言ってもしゃあないから反体制運動へ加わる若い活動家のようなもので、私からしたら、まず本物の父親を叩けよ、と諭してあげたくなるのですが、日本に住んでるんだから日本がなんとかしろ、っていう言い草は、自国民の庇護をおざなりにしてきた(人を人とも思わぬようなそれこそ人権感覚の欠落した)半島国家への深い絶望のゆえじゃないんでしょうか。
そして、日本は、彼らのその深い絶望のようなものまで斟酌して背負い込まねばならないのでしょうかという疑問もまた生まれます。不快な事実や都合の悪い現実を受け入れることは苦痛ですが、それらから目をそらし逃れ続ける限り、精神を病んだ患者と同じなわけで、口から出てくるのは、ぶつぶつとうわごとのような恨み節の妄想だけだと思います。私は朝鮮と日本の過去についてデリカシーは持ちたいが、事実や真実を曲げる必要はないし、思い上がったある種の日本人のように朝鮮人だからといって半人前扱いして必要以上の手加減を加える必要もないと思っています。歴史的事実の前に遁走してしまえばそれだけの人間だと思いますし、逆にもし新しい歴史の資料が出てくれば、潔くそれを認めればいいだけの話です。



furukotobumi 2009/11/12 21:47
鋭い舌鋒であの小谷野敦を完全制圧したmacskaさんですら、厳然たる歴史的事実を前にしては、どんな強弁的解釈も個人的倫理観とやらも少しも通用させえず、こうして一歩退却したところでぐずぐずと断末魔をおらびあげる姿をさらす他にないのだなぁと感慨深いです。私の先のコメントのあてこすりもよく理解されて食いつかれてこられた(そこしかくいつけない)のもさすがだなと。
振り上げた拳をおろし損ねて虚勢をはられてるのはわかるんですが、ここはもう一度よくお考えになって、自分がこの問題について判断を下すにはまだ事実関係の勉強が不足であったと、お認めになることをお勧めします。macskaさんのファンも途中から(『恣意的』の使用について、詭弁を弄して切り抜けられたあたりから)お師匠様、アクロバットのやりすぎは危険やわ、とひやひやしながら見守ってると思いますよ。
>不快な事実や都合の悪い現実を受け入れることは苦痛ですが、それらから目をそらし逃れ続ける限り、精神を病んだ患者と同じなわけで、口から出てくるのは、ぶつぶつとうわごとのような恨み節の妄想だけだと思います。
私たちが共有できるのは「事実」だけであって、macskaさんのちゃちな倫理観なぞ共有したくもない人間は五万といるのです。その倫理観に基づく解釈が、共有すべき「事実」を蔑ろにしたうえでの善悪の判断だとすればなおのことです。「事実」を語るな、善悪(観念)を語れ。文芸批評か何かならmacskaさんがこう主張されても誰もかまやしないのですが、ことこの問題に関しては明らかに、間違いです。
どんな勝手な観念を抱こうが、歴史の事実の重みの前に吹っ飛ばされるだけで、その重みに耐えて主張できるものだけが現在私たちの共有できる「倫理」です。新石器時代の地層に縄文土器を埋め込むようなまねをしちゃいけませんし、嘘とごまかしと曲芸は、日本人と在日との間にまた新たな禍根を残すだけです。事実に嘘を塗りたくるから二度と信用されなくなるのです。


furukotobumi 2009/11/15 22:49
だから、言わんこっちゃない。活動家としての分野でなら自分の都合を通すために嘘やごまかしや強弁で対面の相手をいくらでも言いくるめられてこられたんでしょうが、その売り物の倫理(観念)を逆手にとられて、自分の観念(倫理)が相手の観念と五十歩百歩のものでしかないということをつきつけられるとこうして沈黙せざるをえないでしょう。観念同士の勝負なら、どちらが精緻な理屈を組み立てたかで勝敗が決まったりするんですが、こと、歴史的事実に関しては、どんな精緻(と勘違いできる)な理屈(倫理)を組み立ててみても勝ち目はありません。歴史的事実の重みや現実の重さの前に吹き飛ばされるだけです。
横槍さんがなさったように、倫理(観念)の理屈なんてさじ加減でどうとでもつくんです。昔、高名な批評家もおっしゃってましたね。「美しい花がある。花の美しさというものはない」と。結局、歴史を検証し判断するときには、現実以外は幻だという、そこまで事実につくほかになく、伸縮自在で融通無碍な倫理観なんてものを基準にしてそれこそ「恣意的に」歴史を切り刻んじゃいけないってことです。
活動家は(あなたが「恣意的」についてなさったように)口八丁で現実を解釈改変できると勘違いしてるようなんですが、彼らは徹底して自分の都合の悪い現実や事実を見ようとせず、勝手な言説を組みたてます。そして現実を突きつけられると途端に感情的な言葉を吐いて遁走して倫理の塔に立てこもるのです。活動家の間違いは、自分のつく嘘とごまかしが事態を一向に改善しないで、当事者をどんどん窮地に陥れるかもしれないことに無自覚であることです。第一、当人が嘘をついてるともごまかしているとも自覚してないでしょう。そりゃそうでしょう、倫理の塔のお姫様(お分かりでしょうが皮肉ですね)なんですからね。
もう一度書きます。私たちの共有できるのは「事実」だけです。日本人と在日(あるいは半島国家)との間に共有できるのも、「事実」だけです。どちらかがそこに嘘やごまかしを挟み込んだ場合、必ずしっぺ返しをくらいます。左翼活動家が戦後在日を利用して行ってきたデマゴギーが、本当に在日のためになったか、もう一度考え直されたらいいですよ。しばらくはだませるでしょう。ざまぁみろと優位に立った気になれるでしょう。しかし、その嘘やごまかしが暴かれたとき、いいですか、二度と信用されなくなります。横槍さんの書き方もちょっとファナティックに傾いてますが、ちゃちな倫理観を振りかざして事実や現実の力を舐めると、あんなふうに書かれても仕方がありません。
もう一度書きます。嘘とごまかしは、何の解決ももたらしません。可能な限り事実につき、原則論に戻らなければ、現在の在日の事態は、おそらく解決しません。その嘘とごまかしに謝罪だの賠償だのと余分なものを差し挟んだ場合、事態は今以上にややこしくなります。新たな禍根を残しながら、どうやって「平和」にやっていくのです。
一番最初に私の書いた「対人主権を主張した韓国の責任を在日がまず問う。それから付随する韓国国民としての様々の責任も(義務も権利も)、韓国と在日が話し合って在日自身が受け入れる。在日自身がそれだけの強さを持つ」。この選択を度外視して議論したところで、観念のお遊びにすぎません。ただの倫理ごっこ(いい人ごっこ)、ということですね。macskaさんの主張される倫理なんてものはその程度にちゃちいということです。そのちゃちな倫理観で、韓国と在日の責任を問うことを恥知らずだとなじられるのでしたら、倫理という信仰にとりつかれた物狂の女にすぎないということです。現実を見失った者は精神病者にすぎません。その一番の治療法は、見たくない現実や事実ををそのまま受け入れることです。